rat's eyes:脆弱なラショナリストの視点

脆弱なラショナリスト「建築家:岡村泰之」の視点

未完成であること


きょうの午前中、「FU-HOUSE 3」concretely!!(東京都中央区)の
一年目検査に行ってきた。


厳しい予算の中で、構造体にRC造を選択した住宅である。
防火地域で3階建て以上は、耐火建築物にしなければいけないという
与条件があったのもひとつの理由であるが、鉄骨造ではなく、
敢えてRC造を選んだのである。
当初は、地盤が悪い地域でもあるので、鉄骨造で軽くつくるつもりでいた。
しかし、クライアントのIさん夫妻と打ち合わせていく中で、
お二人が望まれているのは、「RCの快適な箱」であるように思えてきた。
そこで、工務店の社長とも相談して実験的なRC造の住宅をつくってみよう
ということになり、このプロジェクトが始まった。


いつも私が言っている、
住まいを考える上での優先順位上位の三つのポイントである、
1)その場所でしか実現できない豊かな建築空間
2)地震に強い構造体
3)適度に快適な熱環境(断熱性能)
の中の3)は、RC断熱なしとしたので、実現できなかった。
もちろん、予算的な問題も含めて、クライアントに了解の上で
そうさせてもらった。
冬夏を過ごされて寒さ暑さはどうだったか聞いてみたが、
あらかじめ熱環境について分かってもらってやっていることも
あるのだろうが、とてもいられない状況にはならなかったらしい。


結局、1)と2)を確実に実行し、その他の優先順位の低いものは、
予算の関係上、自主施工でやってもらうということになった。
1年経って、いろいろなものが新たにつくられ加えられていた。
大きな豊かな空間の中に、キメキメでない、ものがゆるやかに配置された様は、
心地よい雰囲気を生み出していた。


なによりも住み手自身の手によってつくり上げられていく「未完成の家」は、
すでに、時間や空間も含めて、住まい手自身が所有する「もの」になっていた。