rat's eyes:脆弱なラショナリストの視点

脆弱なラショナリスト「建築家:岡村泰之」の視点

建築家が建売住宅をデザインするということ


いま、いくつかの建売住宅のデザインをしている。
ふつう、建築家というものは建売住宅には関わら
ないものだった。5千万〜1億円の高額の客寄せ
パンダ的な建築家建売住宅は、なんどか建てら
れることはあった。しかし、3500万円〜4000万円
の建売住宅には、駆け出しの頃バイトととしてなら
ともかく、建築家として関わることはほとんど例は
ないだろう。(もちろん、土地+建物の合計金額
である。)


にもかかわらず、なぜ自分が建売住宅に関わる
のか。理由は2つある。


ひとつは、建売住宅は同時に複数戸建てられる
から。ミニ戸建てと批判されているが、複数あると
いうことは、建物同士で空間を豊かにできる。また、
まちづくりの人に批判されるほど、まちに影響力を
持っているということ。つまり、豊かなミニ戸建て
をつくればいいのだ。


ふたつめは、建築家のつくる空間がほしいのだが、
どんなものがいくらでできるかが、分からないところ
に依頼するのは不安。打ち合わせがめんどうくさい
し、設計期間が長いのがいやという人もいる。設計
事務所に住宅の設計を依頼されるのは、住宅の
全体の戸数の3%にも満たないだろう。それ以外の
空間を望んでいる人は、もしかするとその倍近く
いるのではないかと直感的に想像している。もし、
それが真実なら、全体の10%の人たちが豊かな
建築空間を望んでいるのかもしれない。おそらく
豊かな空間は、人の気持ちも豊かにしてくれる。
建築家のマーケットを広げるには、市場の大きな
建売市場に建築家が進出して、空間の価値を人々
により広く伝えることによって、将来、建築家市場
が広がり、より快適な住宅づくり、まちづくりなどが、
どんどん、可能になっていけば、少しでも建築業界
に希望の光をもたらすことができるのではないかと
考えている。


こんなことを考えて、いま、建売住宅をデザインして
いる。