すっかり忘れていたと思っていたことを、ふとした
瞬間に思い出すことがある。
それは、頬をなでる風であったり、匂いであったり、
ありふれた風景であったり、あるシチュエーション
であったりする。それらが、封印された記憶を
甦らせるのである。
ときには、夢の中で記憶が連鎖して、葬り去られた
はずの記憶が魔法のように現れることがある。
人間の記憶は、01で記録されるコンピュータの
記憶とは異なり、環境や状況とともに刻印される
時間と空間をともなった、不思議なもののようだ。
とくに夏の匂いは、遠い少年時代の記憶を喚起
させやすい。