rat's eyes:脆弱なラショナリストの視点

脆弱なラショナリスト「建築家:岡村泰之」の視点

郵便の境界


子供のころから、ポストに郵便物を投函するとき
に、いつも不思議な感覚を体験していた。


ポスト口に郵便物を投函した瞬間に、自分の
ものだったものが、いったん公のものになり、
配達されると受取った相手のものになる。投函
するときに、個のものが個からリリースされる
のである。ほんとうにポストに入ったのだろうか、
届くのだろうかという不安も手伝って、不思議
な感覚を得ていたのだろう。


こうしたあるものの支配からリリースされる
ものはたくさんある。建築の設計が終わった
とき、完成して引き渡したときも同じような感覚
に襲われる。アーティストが作品を完成させた
とき、小説家が小説を書き終えたとき、音楽家
が作曲し終わったときなども、同じ感覚なの
だろう。


おそらく、「死」も同じようなものなのではないか
と思っている。脳が考える「意識」によって、自分
が自分であると思っていたものがその自分から
リリースされることではないだろうか。個から、
宇宙へ・・・。


それゆえ、死の個から宇宙へリリースされる
恐怖から、人を救済するために宗教が生まれる。
ある宗教は、死を迎えるときに神によって救済
されると説き、あるものは、無に戻ると説く。後者
は、生きていても死んでいても宇宙は変わら
ないよと人を諭す。


なぜだか分からないが、郵便ポストを見ていた
ら、こんなことを考えてしまった。