rat's eyes:脆弱なラショナリストの視点

脆弱なラショナリスト「建築家:岡村泰之」の視点

関係を絶つことで科学は成り立っている


いま、河合隼雄さんと茂木健一郎さんの対談集
「こころと脳の対話」(潮出版社)という本を
読んでいる。


それにしても、茂木さんという人は、人が持って
いる不思議なものを引き出す特殊な触媒能力を
お持ちである。聞き上手のはずの河合さんが
かなり深いところまで入り込んで自分のことを
話されている。


恐れながら、いま自分がとくに住宅分野でやって
いる仕事は、河合さんのやってこられたことや
生きざまと深くリンクしているような気がする。


今日まで続いている、モダニズムに端を発して
いる科学主義批判の書とも取ることができる。
ものごとを自立した体系として、数値的効率的
に解釈するという「世界観」を持つ「科学」は、
人間の無意識の世界や、人々やモノゴトの関係
性を無視することで成立している。


科学主義や、ものごとを一元化して認識しよう
とする原理主義は、無意識や、人やものの曖昧
な関係性を取り払おうとする傾向がある。そこ
では、気持ちのゆとりや、ものごとの豊かさを
味わうための隙間はない。


いまの世の中で必要な思考をこれまでに明確に
表現できている本をほかに私は知らない。河合
さんが残された最高の遺書ではないかと思う。


科学が一切無効なものだということを言おうと
しているのではない。世の中がより便利になり
豊かになったり、人間の世界観を拡大していく
には科学は大変有効なものである。


しかし、人々やものごとの関係を絶つことで
科学は成り立っているという側面を持つもので
あり、科学のアナロジーで世界を動かしたり
認識してはいけないということを肝に銘じて、
科学と付き合っていった方がいいと言いたい
だけである。