抽象やコンセプトということばは、毛嫌いされ
がちなもののようだ。難しいもの、分からない
ものと思われているのだろう。
でも、人間の日常生活を見てみると、それらなし
では何も成り立たないことが分かる。
なにか店で買い物をするとしよう。当然、お金を
使って買いたいものを買う。お金というものは、
価値があるとみんなが決めた金属や紙である。
ほしいものをその金属や紙と交換しているのだ。
この行為は、実は高度に抽象化されたもので
ある。
つぎに、だれか他人と話をするとしよう。そこ
では、ことばを使ってお互いが伝えたいことを
伝え合う。ことばというものも、何か実際にある
ものや行為を音に変換した抽象である。これほど
抽象化された行為もないかもしれない。
日々生活していて、人間の行為には抽象が付き
まとう。コンセプトとは、概念と約されるが、抽象
を寄り集めたひとまとまりの考えのことである。
確かに、具体的なことと全くかけ離れた抽象や
コンセプトは単純に独りよがりなもので、時々
美学的な意味を持つこともあるが、私自身は
そこにはほとんど意味はないと考えている。
現実的で具体的なものとつながっている抽象や
コンセプトは、人と人とのコミュニケーションを
より深いものにしてくれる。逆にそれらがないと
対話そのものも成り立たない。
こうした良質な抽象やコンセプトを駆使して、
人と人が相互に理解し合える場をつくっていけ
るよう積極的に考えていきたいと思っている。