rat's eyes:脆弱なラショナリストの視点

脆弱なラショナリスト「建築家:岡村泰之」の視点

空間をどのように伝えていくか


当事務所で設計した横浜市鴨居の建築家建売住宅
「空庭 sora-niwa」が、3棟とも完売した。


売れ方が従来の建売と大きく異なっていたことが
分かった。従来の建売は、間取り・面積・建設地、
そして、価格だけの情報で、実際の建物を見ること
もなく売れていくものらしい。これらの情報をなるべく
広く多くばら撒くことによって、売る速度を上げて
いく。


「空庭」は、3LDKという形式を守ってもおり、価格的
にも、近くの物件に比べても同等程度で設定された。
それでも、ビラ等で人が集まらなかったのは、駅から
ちょっと遠いという立地条件によるものか。


そんなことで、建築プロデュース系のサイトから
アクセスした人がすべての棟を購入された。それも、
実際のモノをじっくり見てから購入を判断されて
いる。


それもそのはず、ビラの間取りでは空間の豊かさは
伝わらない。実際、体感しなければ分からないもの
なのだ。


建築家の仕事は、特定の場所に建つ建築をいかに
空間的に豊かにするかということである。それと
同時に、空間の豊かさを人々に伝えていくという
使命も帯びている。同じ建築をつくるなら、空間が
豊かなもののほうが、人を幸せにする。


私は、このような使命感をもって、この「空庭」の
設計に携わった。建築家は、もっと空間の豊かさを
具体的に人々が体感できる機会をより多くつくって
いくほうがよい。このような低価格帯の建売住宅で
こそ、建築の裾野を広げていく必要があると思う。


「空庭」の購入者が、車や建築の設計者だったこと
も興味深い。市場的にみると、かなり薄い層なの
だろう。でも、確実にこの層にも市場はある。市場
は見つけるものではなく、掘り起こすものである。
どんどんこの層を刺激していきたい。


空間は、見えないものだからこそ、このように、より
具体的に伝えていく方法を考えた方がよい。