rat's eyes:脆弱なラショナリストの視点

脆弱なラショナリスト「建築家:岡村泰之」の視点

げんきな日本論


なかなか秀逸な本だったので紹介したい
と思う。


「げんきな日本論」(講談社現代新書
いずれも社会学者、橋爪大三郎さんと
大澤真幸さんの対談本である。興味深
かった部分を書き記しておこう。


まず、日本の土器は世界で一番古いと
いうお話。日本は気候が温暖で小さな
同じような川が点在しており狩猟時代
から定住するようになったため、土器
が早い時期から使われるようになった
ということ。定説では農耕生活が始まる
と土器をつくり出す、ということになって
いるが、日本では土器が出現する時代
と農耕の開始時期が一致しないらしい。


つぎに、天皇の存在について。天皇
カミを崇拝する多くの領主のひとりで
その中で最も星稜がある領主が天皇
なったらしい。絶対的な実力者ではない
ということである。武武家社会の時代、
武士は天皇からまず右近衛大将という
位をもらい受け、征夷大将軍となって
幕府を開いて国を統治する。最高位に
あるのは天皇だが、真の実力者は武士
という構造になっている。この権力の
構造は連綿と続き、田中角栄が首相を
退いてからも、裏で政権を操っていた
のも同じ構造である。山本七平さんの
日本教」や「空気」にもつながっている。


そして、日本語の文字について。漢字
と平仮名と片仮名を併用している上に、
漢字には音読みと訓読みという2つの
読み方がある。われわれは普通にこれ
らを使っているが考えてみるととても
複雑な運用をしている。漢字を取り入
れるときに表意文字表音文字に分解
することで、平仮名と片仮名を生み出
した。漢字そのものは概念用語として
取り入れたのだ。だからこそ、明治の
時代に、諸外国の学問を輸入する際に
外国語の概念用語を漢字でつくり出し
た。つまり外国語を参照することなく、
日本語内ですべての学問が完結できる
ようになっているのだ。中国や東アジア
諸国はどこもそんなことはしていない。
外国の学問はその外国語でしか習得
することができないのだ。明治時代に
アジア諸国から日本に留学生が来て
いたことも頷ける。西周らの仕事は恐る
べきものである。


なぜ日本が植民地にならなかったこと
についても、興味深いことが語られて
いる。ペリー来航時に日米通商条約を
結ぶことによって、植民地化を防いだ
らしい。アメリカは当時植民地を持た
ないと世界に公言していてヨーロッパ
諸国を牽制していた。もし、イギリス
やフランスと最初のコンタクトを取って
いたら植民地にされてしまっていたか
もしれない。


このようなことが、ライブでお二人の対談
が行われておりお互いの話が止揚され
合い、弁証法的にとてもおもしろい空間
をつくり上げている。ぜひご一読していた
だきたいい本である。